タバコを吸う人の言い分としては「ストレス解消」や「リラックス効果」というのがあります。
臭い煙を吸って本当にリラックスなんてできるのだろうか。ただ習慣になっているだけで、気のせいではないのか。タバコを吸うための単なる口実なだけではないのか。そう思うかもしれません。
しかし、ニコチンのリラックス効果は医学的にも間違いではないのです。
目次
人間がリラックスできる状態とは?
人間がリラックスしている状態とは、「副交感神経」が活性化しているときです。
たとえば、寝ているときやお風呂に入っているときです。
お風呂に入っているときは、のんびりとした気分になっていますね。イライラしたり怒っていることまずないでしょう。副交感神経が活性化しているからです。
また、脳内物質の「アセチルコリン」が分泌されているときにも副交感神経が活性化してリラックスした状態になります。
【脳内物質】アセチルコリンとニコチンはどう関係があるのか
アセチルコリンは脳内で「2つの受容体」に作用しています。

アセチルコリンは「ムスカリン受容体」と「ニコチン受容体」に作用します。
一方、ニコチンは「ニコチン受容体」に作用します。
アセチルコリン
→ ムスカリン受容体
→ ニコチン受容体
ニコチン
→ ニコチン受容体
ニコチンはアセチルコリンの半分の作用を持っている状態です。ニコチンを摂取すると、ニコチンは7秒で脳に到達して受容体と結合します。そしてアセチルコリンと同様の作用を起こします。
これがニコチンのリラックス効果の正体です。
ニコチンを摂取し続けるとアセチルコリンが欠乏する
スポーツでたびたび問題になるのがドーピングです。ただの不正行為というだけではなく、選手の肉体にも悪影響を及ぼします。
ドーピングの方法のひとつが体外からのホルモンの供給です。ステロイドなどで一時的にたくましい肉体を手に入れても、ドーピングをやめた後にはみるみる体が衰えていきます。一旦ホルモンバランスが崩れると戻すのは容易ではありません。
人間の肉体はなるべく省エネで活動しようとします。ドーピングにより体外からホルモンが供給されていると、ホルモンが十分に分泌されていると肉体が判断します。そして自らの分泌量を減らすのです。これがドーピングの副作用です。
ホルモンだけではなく、脳内物質でも同様です。
喫煙者のイライラの原因【アセチルコリンが欠乏】
ニコチンの摂取を続けていると、人間の体は脳内でアセチルコリンが十分に供給されていると錯覚します。十分に存在するものをそれ以上生成する必要はないと判断します。そしてアセチルコリンの生成が減少するのです。
やがて脳内では、アセチルコリンが減少していることが通常の状態になります。喫煙者は常にアセチルコリンが欠乏しているので、補充したいという欲求が生じます。これがイライラの原因です。
喫煙者はイライラを解消するためにタバコを吸いニコチンを供給します。一時的にイライラはなくなりますが、時間がたつとまたニコチンがほしくなります。このサイクルが続くのです。
これがニコチン依存症の正体です。
ニコチン依存症とは、慢性的に「アセチルコリンが欠乏」してることだったのです。
アセチルコリンが減ると認知症のリスクが増加!
アセチルコリンを分泌するには運動が効果的です。逆に運動不足だとアセチルコリンの分泌量が減ります。
ケガで体の自由がきかなくなった高齢者が、とたんに認知症を発症してしまったというケースがあります。アセチルコリンの分泌量が減ったことが原因です。
アセチルコリンは認知症と密接に関わっていたのです。
ニコチンの摂取によりアセチルコリンの分泌が減ると、運動が困難になった高齢者と同様の状態になります。若い世代ならまだしも、高齢になるほど認知症のリスクは高まっていきます。
喫煙者が認知症を発生するリスクは、非喫煙者の「1.8倍」という調査結果が出ています。
おわりに
喫煙によるリラックス効果は、気のせいではなく医学的にも証明されたものでした。しかしその一方で脳の錯覚ともいえます。
アセチルコリンの代わりにニコチンが作用していたに過ぎません。
さらに、認知症のリスクと引き換えにリラックス効果を得ていたのです。